七夕、カキフライそしてモヒート
七夕の話。
2年前の夏、嫁は出産のため6月半ばから地元に帰省していた。
出産予定日は7月26日。僕は東京で束の間の独身ライフを謳歌していた。久々にクラブに行ったりもした。誓って浮気はしていない。でもAVはそこそこ観た。
予定日まで3週間を切った七夕の前日、そろそろ真剣に名前も考えなきゃなと思っていた平日の昼休み中に嫁から「なんかちょっとお腹がいたい〜」というメールが来た。聞くと昼にカキフライ食べたらしい。妊婦が夏にカキフライ食うなよと思ったが、大事ではないようなのでひとまずは安心した。
※カキフライは断然ソース派です。
その日はたまたまちょっと立て込んでいたのでPCを家に持ち帰って夜に家で仕事していた。
ヨーロッパだったかメキシコだったか、夜中に電話してきた奴がいたのでそのクソ野郎の対応もしつつ、2時近くになったので流石にそろそろ寝ようと思ったら嫁から着信があった。
夜中なのと、ついさっきまでラテンの国のやつと英語で話しまくっていたせいで (やっぱりメキシコだ) ちょっとハイになってた僕は
「もひもひモヒート?」と電話に出た。
でも相手は嫁ではなく、嫁のお母さんだった。
殺してくれと思いながら状況は何となく予想がついた。きっと予定より早く産まれそうなのだ。大変だ。恥ずかしくて死んでる場合ではない。
しかしその予想は間違いだった。
嫁の母は「産まれたの!」と言う。えっと、なんで過去形?
しかしなんだか電話の向こうはバタバタしている。なにやら今から救急車で大きい病院に移るらしい。大丈夫だからまた電話するからねと言って電話は切られた。モヒートには触れてもらえなかった。
僕はいったい何が大丈夫か分からないまま、深夜2時過ぎに現場から1,100kmほど離れた場所に独り放置されることになった。
眠ることも出来ず、とりあえず朝一の飛行機のチケットを取った。ついでに上司にしばらく休む旨メールしておいたら即座に返信があった。こんな時間に僕が勧めたAVを観ていたらしい。
次に嫁の母から連絡があったのは明け方5時頃だった。昨晩やっぱり急に陣痛が始まり産婦人科に着くとほぼ同時に産まれたが、子供が上手く呼吸できなくて直ぐに救急センターに搬送されたようだ。
今はNICU (新生児集中治療室) にいるとのこと。幸いにも特に命に別状は無いと聞いて安心した。
電話を置き、僕は着替えて羽田に向かった。長い長い一日の始まりだったが、その話は割愛する。
このようにして僕は七夕の日によくわからないまま父親になった。
それから2年が過ぎ、あと2時間ほどで誕生日を迎えるムスコがスマホを必死に奪おうとするのに抗いながらこの文章を書いている。
明日にはおじいちゃんとおばあちゃんが孫の誕生日を祝うため上京してくる。
大きな事は願わない。明日という一日がムスコにとって、そして僕たちにとってどうかいい日になりますように。
我々の人生はたった一日で大きく変わることがあるってことを、僕は知っている。
#今週のお題「星に願いを」