消えたドヤ顔
いきなり私事で恐縮なのだが、うちのムスコ様は中度の発達障害である。いわゆる自閉症スペクトラム。あと数ヶ月で4歳になるけどまだ言葉らしい言葉は発しない。でも毎日楽しそう。そしてかわいい。超絶にかわいい。
言葉が話せなくてもこっちの言ってることはだいたい分かってるみたいだし、彼の伝えたいこともなんとなくわかる。つまりコミュニケーションがムスコ様との間にちゃんと成立している。
自慢のようで恐縮なのだが、僕のTOEICスコアは850点。去年英検準1級も取った。旅行や出張程度ならまあ困らない程度の英語力があると自負している。
でも外国人よりムスコ様の言いたいことのほうがわかる。まあ父親だから当たり前なのかもしれない。とりあえず「ムスコ様の言いたいことわかる選手権」が開催されたら僕は世界2位までには入るだろう。
この前の週末、家に引きこもってコロナビールを飲んでいた。だらだらウトウトしていたら突如静寂を切り裂くチャイム。Amazonから荷物が届いた。ちなみにムスコ様は誰かが来ると全力で玄関に走って行き笑顔で愛想を振りまく。かわいい。子供嫌いの配達員さんはごめんなさい。
箱の中身は僕のボディソープ(デオウ)とか細々した日用品だったんだけどムスコ様には関係ない。彼は箱が大好きだ。正確にいうと箱を開けることに至上の喜びを感じていらっしゃるのだ。YouTubeでトミカだかプラレールだかを箱から開封するだけの人類には早過ぎる動画をよくご覧になっているのだが、どうもそれを真似しているようだ(この前までは電子レンジにミニカーを入れる遊びがブームだった)
本当のハサミやカッターはまだ危ないのでそれらは隠し、ペン立てにはおもちゃのハサミを置いている。ちょうどいい箱があればムスコ様はそれを使ってずっと遊んでいる。おままごとの一種だろう。
でもその日はなぜかペン立てにいつものハサミが入っていなかったので、ムスコ様は少々戸惑いながらも代わりになりそうなものとしてボールペンをお手に取られたのである。
それなりに先も尖っているから振り回しながら持って歩くのは危ない。そもそもそれは箱を開けるためのものではないことを人生の先輩として教えなければならないので口を開こうと思った瞬間、今から発する言葉を英訳するとそれは魂に刻まれたあの例文であることに気づいたのだ。僕は満面の笑みとともに英語で彼に話しかけた。
"Hey, this is a pen"
その瞬間、横で洗濯物を干している嫁さんから「Thatやろ」という大変的確なツッコミが0.3秒くらいで返ってきた。そのようにして僕のドヤ顔は刹那のうちに消え去ることになったのである。
Toeic850点など所詮こんなレベルである。ムスコ様はペンの先でAmazonの箱を楽しそうに開けている。外はいい天気で桜も咲き始めた。洗濯物もよく乾くだろう。
行方不明だったおもちゃのハサミは後ほど電子レンジの中から無事回収された。めでたしめでたし。
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