犬
タイの話をします。
もう5年ほど前ですが、2年くらい仕事でタイに駐在していました。
首都であるバンコク (駐在者はイキって「クルンテープ」といいます) はムッチャ都会でそこらの日本の地方都市なんか目じゃないんですが、それでも東南アジアらしさは其処彼処に残っています。
その一つが野良犬ですね。バンコク市内でも田舎でもゴルフ場の中でも、痩せた犬がそこら中にうろついています。
危ないんじゃないの?と思われるかもしれませんが、基本的に暑くてどの犬もやる気なく寝そべっているだけなので特に危険はありません。汚いので触ろうとも思いませんけど。
一応、行く前に狂犬病などの予防接種は受けました。なんか5種類くらいを何日かに分けて複数回注射されて、腕が穴だらけになったのを覚えています。
ちなみに、各国の狂犬病発生状況はこんな感じらしいです。インドは流石ですね。
そんなこんなでサバイサバイなタイライフを過ごしていたのですが、ある日危機が訪れました。
バンコク中心部からそれほど離れていない「オンヌット」というエリアにあるお客さんの工場に行ったのですが、商談を終えて道にでたら20mほど先に一匹の犬がいました。
いつものことなので最初は気にもしていなかったのですが、何かがおかしいと心の中で警鐘が鳴っています。
他の犬はどこを見るでもなくフラフラ歩いているか寝そべっているのですが、そいつは明らかに僕を一直線に見据えて足腰にも力が入っているではありませんか。
コイツはヤバイと直感し、僕は駆け出しました。今思えばお客さんの事務所に戻ったら良かった気もしますが、犬との位置的にそれも難しい状況だったのだと思います。
走ったら案の定犬が追いかけてきました。僕はそいつの悪鬼のような姿を忘れはしません。ヨダレを垂れ流しながら追いすがってくる犬の目は、まさに狂人のそれでした。
狂っていても流石犬。足の速さは小太りで運動不足の日本人を遥かに凌駕します。
あっという間に犬との距離が5mくらいに近づいてしまい、もうあかん...「お前が俺の死か」などという父親である宮崎駿を意識せざるを得ないダメ息子が監督した糞映画の寒々しいセリフが一瞬頭によぎりましたが、こんな東南アジアの片隅の工場地帯が僕の死に場所のはずがないと思い走り続けました。この一文いりませんね。
絶対絶命のその時現れたのは、僕の運転手でした。
運転手というと白い手袋つけた紳士を想像するかもしれませんが、コイツは僕より1つ2つ年下でちょっと片岡鶴太郎に似ているチンピラみたいなタイ人です。とてもいいやつなんですが朝僕を迎えに来る前にニンニクの効いたものを食うので車が臭く、その日も朝ガパオ禁止令を出したところでした。
普段ヘラヘラしている運転手が車で飛び出してきて、いままで見たことの無い真剣な顔で窓から「乗れ!!」と言っています。カッコイイ...惚れてまうやん、こんなん。
そんなわけで命からがら狂った犬から逃げることができました。後にも先にもそんな危ない犬をタイでみたのはその時だけです。無駄に「狂った犬」というタイ語を新たに習得してしまいました。
以下は蛇足なんですが、このお盆にその運転手とその奥さん子供を日本に呼ぶことにしました。もちろん旅費は全部僕が出します。安い金額ではないけど彼は命の恩人だし、それ以外にもいろいろあったので。
恩返しというか、彼のことは兄弟みたいなもんだと僕は勝手に思っています。なので京都観光のついでにうちの親にも会わせようと思う。
タイから出るのは初めてらしいけど、楽しんでくれたらいいな。
以上です。タイ語復習しとこ。
#今週のお題「人生最大の危機」